熊野権現

 犬猫供養墓のすぐ近くに建っているのが、熊野権現が祀られるお社です。
「お寺の中にどうしてお社が?」と不思議に思われるかもしてませんが、江戸時代まではこれが普通でした。特に時宗と熊野権現の間には、深い関係があるんです。
 昔々、一遍上人が南無阿弥陀佛と刷られたお札を人々に配り歩く旅に出てからまだ間もない頃、紀伊国(現和歌山県と三重県)で一人のお坊さんと出会いました。いつものようにお念仏を授けようとする一遍上人でしたが、このお坊さんは「今はお念仏に対する信心が起こらないから受け取れない。」と言って、一遍上人の申し出を断られたのです。
 このことが一遍上人を悩ませました。上人は念仏を進める自分の行いは、自分勝手な押しつけだったのではと悩みます。そして悩む心を抱えたまま、熊野の証誠殿という社に籠もります。するとそこに熊野権現が現れ、一遍上人に告げました。
「あなたが(念仏を)勧めるからあまねく人々が極楽へ往けるのではない。阿弥陀仏が悟りを開かれた時から、全ての人々が極楽へ往けるのは、南無阿弥陀仏に依ると定まっている。相手に信心があるかどうか、行い正しい人であるかどうかにこだわらず、その札を配りなさい。」
 一遍上人はこの言葉を聞いてさらにお念仏への悟りを深め、それからは自信を持って旅を続けられました。熊野権現のお告げは一遍上人に大きな影響を与え、時宗にとって特別な神様となったのです。